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鼻腔がん・
副鼻腔がん(上顎洞がん)とは?
―特徴と原因、初期症状から検査、治療まで
体のさまざまな部位にがんが発生しますが、鼻の内部や周辺の骨の中の空洞にがんができることもあります。鼻の内部にできるがんを鼻腔がん(びくうがん)、その周りにある空洞にできるがんを副鼻腔がん(ふくびくうがん)といいます。ここでは、鼻腔がん・副鼻腔がんの中で最も患者数の多い上顎洞がん(じょうがくどうがん)を中心に、特徴と原因、初期症状から検査、治療について解説します。
鼻腔・副鼻腔(上顎洞)とは、どんな器官
鼻の穴の中にある空気の通り道のことを鼻腔といいます。鼻腔には、吸い込んだ空気を加湿・加温したり、ほこりを取り除いたりする役割があります。
鼻腔の外側には、鼻腔につながる四つの空洞[上顎洞、篩骨洞(しこつどう)、前頭洞(ぜんとうどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)]がほぼ左右対称に一対ずつ存在しており、これらを総称して副鼻腔と呼びます。上顎洞は頬骨(ほおぼね)の裏側に、篩骨洞は目と目の間に、前頭洞はひたいの裏側に、蝶形骨洞は篩骨洞の奥に、それぞれ位置しています。
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鼻腔がん・副鼻腔がん(上顎洞がん)の特徴と原因
2019年に新たに「鼻腔および中耳※」のがんと診断された患者さんは837人、副鼻腔がんと診断された患者さんは1,165人と報告されています1)。副鼻腔がんは、女性より男性に多い傾向があります。
鼻腔がん・副鼻腔がんの中で上顎洞がんの患者さんが最も多いです。上顎洞がんと診断される患者さんは年間約700~800人とされています2)。 上顎洞がんの原因ははっきりとは分かっていませんが、喫煙、慢性的な炎症、大気汚染、職業的に粉塵(ふんじん)などに長期間さらされる、 ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染などがリスクを高める要因と考えられています3,4)。
※鼻と耳は耳管という管でつながっているため、「鼻腔および中耳」という分類になっています。
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鼻腔がん・副鼻腔がん(上顎洞がん)の
初期症状
鼻腔がん・副鼻腔がんに共通する症状に、鼻づまりや鼻血があります。これらの症状が数週間にわたって鼻の片側だけに続くようなら、注意が必要です。痛みがないから大丈夫だろうと自己判断せず、早めに耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
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繰り返す鼻づまり
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繰り返す鼻血
上顎洞がんの場合、初期の段階では症状が現れにくく発見されにくいため、進行がんとして見つかることが少なくありません。進行すると、がんが広がる方向によってさまざまな症状が現れます。 主な症状に、頬のしびれや痛み、頬の腫れ(はれ)、眼球の突出、物が二重に見える、歯ぐきの腫れ、歯のぐらつき、口が開けづらい、口蓋(こうがい)(口の中の上あごの部分)の腫れなどがあります2-5)。
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頬のしびれや痛み
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頬の腫れ
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眼球の突出
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物が二重に見える
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歯ぐきの腫れ
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歯のぐらつき
口が開けづらい
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口蓋こうがいの腫れ
鼻腔がん・副鼻腔がん(上顎洞がん)の
診断のために行う検査
鼻づまりや鼻血が主な症状であれば、鼻鏡(びきょう)と呼ばれる鼻の穴を広げる器具を使って視診を行います。 鼻腔の奥を調べる際は、ファイバースコープと呼ばれる細い内視鏡を使います。異常が認められた場合、組織の一部を採取して顕微鏡でがん細胞の有無を調べる生検(せいけん)という検査を行います。生検はがんかどうかを確定するために必要な検査です。
上顎洞がんが下方向に広がると、口の中の上側にがんの病変が現れることがあるため、口内を診察することもあります。
生検の結果、鼻腔がん・副鼻腔がんと診断されたら、がんの進行の程度や転移の有無を調べるために、超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査、PET-CT検査などの画像検査を実施します。
これらの検査結果を踏まえ、がんの広がりやリンパ節への転移の状況、ほかの臓器への転移の有無などを総合的に判断し、鼻腔がん・副鼻腔がんの進行の程度を病期(ステージ)として分類します。ステージは、がんが進行していく順にⅠ(ワン)、Ⅱ(ツー)、Ⅲ(スリー)、Ⅳ(フォー)と進みます。ステージⅠ・Ⅱは早期がん、ステージⅢ・Ⅳは進行がんに相当します。
鼻腔がん・副鼻腔がん(上顎洞がん)の治療と後遺症への対応
鼻腔がん・副鼻腔がんの治療方法は、大きく分けて手術と化学放射線療法の二つがあります。化学放射線療法とは、放射線治療と薬物療法(抗がん剤治療)を併用する方法です。なお、それぞれの治療方法については、頭頸部がんの治療方法で詳しく説明しておりますので、そちらをご覧ください。
どのような治療を行うかは、がんのステージや患者さんの状態などを考慮して決めていきます。鼻腔・副鼻腔の近くには脳や眼球、口などの臓器があるため、治療の際には物を見る、食事をとるといった機能を損なわない工夫が必要になります。また、手術を行うと顔つきなどの整容面(見た目)に大きな影響が及びます。そのため、治療方法は「がんを治すこと」と機能面・整容面のバランスを考慮して選択します。
鼻腔がんの治療
早期がんの場合は内視鏡を用いた手術を行うことが多くなっていますが、進行がんでは鼻の外側の皮膚を切ってがんを切除する手術が選択されることがあります。手術の規模は、がんの広がり方によって変わってきます。また、どのステージにおいても放射線治療や粒子線治療(りゅうしせんちりょう)が行われることがあります。これらの治療に加え、薬物療法(抗がん剤治療)を追加する場合もあります6)。
上顎洞がんの治療
上顎洞がんの治療の基本は、がんの広がりの範囲に応じた手術と、手術後に行う化学放射線療法です。切除する範囲が大きい場合は、再建手術(さいけんしゅじゅつ)(切り取った器官を新たに作り直す手術)を行います。また、患者さんの状態によっては、手術ではなく化学放射線療法が選択される場合もあります2,3)。
手術で切除する範囲が大きいと、口の中のものをうまく飲み込めなくなったり、唇の動きが悪くなったりすることがあります。こうした後遺症がある場合は、治療後にリハビリテーションを行います。また、がんの転移・再発の有無を確認するため、退院後も定期的に通院して診察・検査を受ける必要があります。再発した場合の治療方法については、再発した場合の治療で詳しく説明しておりますので、そちらをご覧ください。
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[参考文献]
- 国立がん研究センター. がん情報サービス「がん統計」(全国がん登録).
(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14) - 日本頭頸部外科学会. 上顎洞がん.
(https://www.jshns.org/modules/citizens/index.php?content_id=19) - 青山寿昭, 花井信広. 頭頸部がんマスターガイド. メディカ出版, 2021. p.127-132.
- 日本頭頸部癌学会. 頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版. 金原出版, 2022. p.51-52.
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会. もっと役立つ頭頸部がん最新情報 鼻腔がん・副鼻腔がんの特徴を知ろう.
(http://www.jibika.or.jp/owned/toukeibu/topics/nose-alart.html) - 日本頭頸部外科学会. 鼻腔がん.
(https://www.jshns.org//modules/citizens/index.php?content_id=20)