咽頭がんとは?
―特徴と原因、初期症状から検査、治療まで
のどにできるがんは、咽頭がん(いんとうがん)と喉頭がん(こうとうがん)に大きく分かれます。さらに、咽頭がんは部位によって上咽頭がん(じょういんとうがん)、中咽頭がん(ちゅういんとうがん)、下咽頭がん(かいんとうがん)の3種類に分類されます。ここでは、3種類の咽頭がんについて、特徴と原因、初期症状から検査、治療について解説します。
咽頭とは、どんな器官
のどは、咽頭と喉頭という二つの器官からなります。咽頭とは、鼻の奥から食道の入り口までの部位で、食べ物や空気が通る管(くだ)のことを指します。鼻の奥の部位を上咽頭、口の奥の部位を中咽頭、のどの一番奥の気管と食道につながる部位を下咽頭といいます。喉頭はいわゆる、のどぼとけの位置にある器官で、気管の入り口にあたります。
食べ物や飲み物を飲み込むときは、中咽頭にある軟口蓋(なんこうがい)が上に動いて鼻腔への通り道をふさぐと同時に、喉頭蓋(こうとうがい)と呼ばれるフタが閉じることで飲食物が気管に入らないようになっています。喉頭には、空気の通り道としてだけでなく、声帯を振動させて声を出すという機能もあります。
咽頭がんの特徴と原因
咽頭がんはどの部位にがんができたかによって、上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんに分けられます。
上咽頭がんの特徴と原因
上咽頭がんは発生頻度の低いがんで、1年間に診断される患者さんは約750人です1)。発症する年齢は60代が多いものの、15~39歳の若い世代でも発症することがあります2)。
上咽頭がんの発生頻度が高い中華人民共和国南部などの地域では、EBウイルス(エプスタインバールウイルス)というウイルスへの感染が発症リスクを高める要因になっていると考えられています。一方、日本では飲酒や喫煙などが上咽頭がんの発症に関係している可能性があるといわれています3)。
中咽頭がんの特徴と原因
中咽頭がんと診断される患者さんは、年間約2,300人です。男性に多いがんであり、中咽頭がんと診断される男性の数は女性の4.4倍に上ります1)。
これまで、中咽頭がんの原因の多くは喫煙と飲酒だといわれてきましたが、近年、ヒトパピローマウイルス(HPV)への感染が中咽頭がんの発症リスクを高めることが分かってきました4)。
下咽頭がんの特徴と原因
下咽頭がんと診断される患者さんは、年間約2,000人です。男性に特に多く、下咽頭がんと診断される男性の数は女性の7.8倍に上ります1)。60~80代で発症することが多く、がんが進行した状態で発見されることも少なくありません5)。
下咽頭がんの主な原因は、喫煙と飲酒です。特に、多量の飲酒は発症リスクを高めるといわれています5)。
咽頭がんに特有の初期症状
咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がん)は、初期のうちは自覚症状が現れないことがあります。
初期症状として、鼻づまりやのどの違和感、声のかすれなどが多いですが、いずれも風邪によく似た症状であり、咽頭がんに特有のものではありません。風邪と違って症状が1カ月以上続くような場合は、早めに耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。
上咽頭がんの症状
初期は自覚症状がないことも多く、発見時には頸部リンパ節(けいぶリンパせつ)にがんが転移したことによる首のしこりが多くみられます。そのほかに、鼻の症状(鼻づまり、鼻血、鼻水に血が混じる)、耳の症状(耳がつまった感じ、聞こえにくい、中耳炎)などがあります。進行した場合は、頭痛や脳神経の症状(目が見えにくい、物が二重に見える、顔面の感覚障害など)が現れることがあります2)。
首のしこり
鼻の症状
(鼻づまり、鼻血、
鼻水に血が混じる)
耳の症状
(耳がつまった感じ、
聞こえにくい、中耳炎)
頭痛
脳神経の症状
(目が見えにくい、
物が二重に見えるなど)
中咽頭がんの症状
初期は自覚症状がないこともありますが、胃内視鏡検査の際に偶然見つかるなど、無症状の段階で発見されることもあります。主な症状として、飲み込むときの違和感、のどの痛み、片側の扁桃腺(へんとうせん)の腫れ(はれ)、血が混じった痰(たん)、首のしこりなどがあります4,6)。
飲み込むときの
違和感
のどの痛み
片側の扁桃腺へんとうせんの腫れ
血が混じった痰
首のしこり
下咽頭がんの症状
初期は自覚症状が乏しいとされていますが、主な症状に飲み込みにくさ、飲み込むときの痛み、安静時ののどの痛み、血が混じった痰、声のかすれ、首のしこりなどがあります5,7)。
飲み込みにくさ
飲み込むときの痛み
安静時ののどの痛み
血が混じった痰
声のかすれ
首のしこり
咽頭がんの診断のために行う検査
咽頭がんの検査では、まず触診(しょくしん)を行います。触診では首の周りを丁寧に触り、リンパ節への転移がないかを確認します。中咽頭がんは口から指を入れて届く範囲にがんができるため、がんが疑われる部分に指で直接触れて、がんの大きさや広がりを調べます。
次に、鼻や口から内視鏡を入れて咽頭の状態を観察します。がんが疑われる場合には組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べます。この検査は生検(せいけん)と呼ばれ、がんかどうかを確定するために必要です。中咽頭がんの場合は、採取した組織を使い、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しているかどうかを調べる検査も行います。
がんが見つかった場合には、がんの広がりや転移の有無を調べるために、首の超音波(エコー)検査、CT検査、MRI検査、PET-CT検査などの画像検査を実施します。
これらの検査結果を踏まえ、がんの広がりや頸部リンパ節転移の状況、ほかの臓器への転移の状態などを総合的に判断し、咽頭がんの進行の程度を病期(ステージ)として分類します。中咽頭がんの場合は、HPVへの感染の有無も踏まえてステージが決定されます。ステージは、がんが進行していく順にⅠ(ワン)、Ⅱ(ツー)、Ⅲ(スリー)、Ⅳ(フォー)と進みます。ステージⅠ・Ⅱは早期がん、ステージⅢ・Ⅳは進行がんに相当します。
咽頭がんの治療と後遺症への対応
治療方法は、がんのステージや患者さんの状態などを考慮して決めていきます。咽頭は飲み込む、発声するといった機能に大きく関わる部位なので、治療を選択する際は「がんを治すこと」と「機能を残すこと」のバランスが重視されます。
上咽頭がんの治療
上咽頭がんは手術が難しい部位のため、どのステージでも放射線治療が標準治療となります。ステージⅡ以上の場合は、放射線治療と薬物療法(抗がん剤治療)を組み合わせた治療を行います。
中咽頭がんの治療
中咽頭がんの治療は、手術と放射線治療に大きく分けられます。早期がんの場合は手術あるいは放射線治療のみで根治(こんち)(完全に治ること)することも少なくありません8)。進行がんの放射線治療では、放射線治療と抗がん剤治療を併用する化学放射線療法が中心となります。
下咽頭がんの治療
下咽頭がんの治療では、がんが下咽頭のみか、喉頭に広がっていても軽度の場合は、喉頭を残して下咽頭を部分的に切除する手術あるいは放射線治療を行います。がんが進行している場合は手術が治療の主体となりますが、喉頭を摘出せざるを得ないことがあります。そのため、QOL(生活の質)を保つ観点から、進行がんでも喉頭を温存する手術や化学放射線療法が選択されることもあります。
なお、それぞれの治療方法については、頭頸部がんの治療方法で詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
がんの治療成績を示す指標の一つに、生存率があります。5年相対生存率(全ステージ)は、上咽頭がんが68.9%、中咽頭がんが61.3%、下咽頭がんが52.3%です9)。生存率は早期のがんほど高くなります。
手術を行うと、食事をしたり話したりするための機能が低下したり、失われたりすることがあります。こうした後遺症に対応するために、治療後はリハビリテーションを行います。また、がんの転移・再発の有無を確認するために、治療が終わったあとも定期的に通院して診察や検査を受ける必要があります。受診の間隔は患者さんの状態によって異なりますが、治療後2年以内は1~2カ月に1回が目安とされています。再発した場合の治療方法については、再発した場合の治療で詳しく説明しておりますので、そちらをご覧ください。
[参考文献]
- 国立がん研究センター. がん情報サービス「がん統計」(全国がん登録).
(https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a14) - 青山寿昭, 花井信広. 頭頸部がんマスターガイド. メディカ出版, 2021. p.78-86.
- 日本頭頸部癌学会. 頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版. 金原出版, 2022. p.55.
- 青山寿昭, 花井信広. 頭頸部がんマスターガイド. メディカ出版, 2021. p.87-93.
- 青山寿昭, 花井信広. 頭頸部がんマスターガイド. メディカ出版, 2021. p.102-107.
- 国立がん研究センター. がん情報サービス 中咽頭がん.
(https://ganjoho.jp/public/cancer/mesopharynx/index.html) - 国立がん研究センター. がん情報サービス 下咽頭がん.
(https://ganjoho.jp/public/cancer/hypopharynx/index.html) - 日本頭頸部癌学会. 頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版. 金原出版, 2022. p.61.
- 全国がんセンター協議会. 全がん協加盟施設の生存率共同調査(2022年11月集計).
(https://kapweb.ncc.go.jp)