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頭頸部がんの治療方法

頭頸部とうけいぶがんの薬物療法とは

頭頸部(顔から首にかけた範囲)にできるがんの主な治療方法には、
手術(外科治療)放射線治療薬物療法(抗がん剤などを使った治療)があります。
ここでは、頭頸部がんの薬物療法について詳しく説明します。

頭頸部がんの薬物療法の薬の種類

薬を使ってがん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を死滅させたりする治療を薬物療法と呼びます。頭頸部がんの場合、治療の中心は手術と放射線治療であり、薬物療法はそれらの効果を高める役割を担っています1)

頭頸部がんの薬物療法で使用する薬には、抗がん剤分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)免疫チェックポイント阻害薬があります。薬は血液を介して体内を巡り、全身に散らばったがん細胞に対して効果を発揮します。一方で、正常な細胞にもダメージを与えてしまうため、さまざまな副作用が生じます。

抗がん剤とは

抗がん剤は、がん細胞が正常な細胞より細胞分裂が活発であるという特徴を利用し、がん細胞を攻撃する薬です。抗がん剤を使う薬物療法は、化学療法と呼ばれます。頭頸部がんの化学療法では、がん細胞を自滅に導くプラチナ製剤が標準的な治療薬です1)

正常な細胞とがん細胞 イメージ画像

がん細胞だけでなく、正常な細胞にも作用してしまう。

分子標的薬とは

分子標的薬は、がん細胞に特徴的に見られる分子を標的にして、がんを攻撃する薬です。がん細胞を狙い撃ちするため、抗がん剤と比べて副作用が少ないと期待されていましたが、実際にはそれぞれの薬に特有の副作用が現れることが判明してきています。

頭頸部がんの治療に使われる分子標的薬として、上皮成長因子受容体(EGFR)に結合することでがん細胞の増殖を抑える抗EGFR抗体があります。抗EGFR抗体は、放射線治療やほかの抗がん剤と併用して使われます。

正常な細胞とがん細胞 イメージ画像

がん細胞を狙い撃ちするため、正常な細胞への影響は比較的少ないとされている。

免疫チェックポイント阻害薬とは

体には、細菌やウイルスなどの異物を排除する免疫が備わっています。免疫は体内に発生したがん細胞も排除していますが、がん細胞の中には免疫にブレーキをかけ、免疫細胞による攻撃を逃れる仕組みを持つものがあります。免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞にかけられたブレーキを外し、がん細胞を攻撃できるようにする薬です。

頭頸部がんにおいて、免疫チェックポイント阻害薬を使った治療の対象となるのは、転移および再発した場合に限られます。

がん細胞と免疫細胞 イメージ画像

がん細胞が免疫細胞にブレーキをかけた状態では、がん細胞を攻撃できない。

免疫チェックポイント阻害薬 ブレーキがかかるのを防ぐ
がん細胞と免疫細胞 イメージ画像

ブレーキがかからなくなると、免疫細胞はがん細胞を攻撃できるようになる。

頭頸部がんの薬物療法

頭頸部がんの薬物療法には、化学放射線療法導入化学療法術後化学放射線療法があります1)。なお、がんが転移および再発した場合の薬物療法については、再発した場合の治療で説明しておりますので、そちらをご覧ください。

化学放射線療法とは

放射線治療と抗がん剤による治療を同時に行う治療を化学放射線療法と呼びます。治療の主体は放射線治療であり、抗がん剤は放射線治療の効果を高める役割を果たします。手術で取り除くことが難しいがんでは、主に化学放射線療法で治療を行います2)。下咽頭がん(かいんとうがん)、中咽頭がん(ちゅういんとうがん)や喉頭がん(こうとうがん)では、手術でがんを切除できると考えられる場合でも、飲み込みや発声の機能を温存する目的で化学放射線療法を行うことがあります。

化学放射線療法 イメージ画像

導入化学療法とは

放射線治療や化学放射線療法を実施する前に、複数の抗がん剤を組み合わせて治療する方法を導入化学療法と呼びます。がんの位置や広がりによっては、手術による治療を行うと発声などの機能を失うことがありますが、導入化学療法によってがんが小さくなれば、手術ではなく放射線治療を主体とした治療を選択できます。下咽頭がんや喉頭がんでは、喉頭を温存する目的で導入化学療法を行うことがあります1)

術後化学放射線療法とは

手術の後に実施する化学放射線療法を術後化学放射線療法と呼びます。術後化学放射線療法は、手術で切除した組織を顕微鏡で調べ、再発のリスクが高いと判断された場合に行います1)

表 それぞれのがんにおける薬物療法

種類 薬物療法の内容
口腔(こうくう)がん・
(ぜつ)がん
進行がんに対して、プラチナ製剤を含む薬物療法を行うことがある。
鼻腔(びくう)がん・
副鼻腔(ふくびくう)がん
抗がん剤を投与する方法は、がんにつながる動脈から注入する方法(動注)と、点滴で全身投与する方法がある。動注ではプラチナ製剤が選択され、放射線治療と同時に行われることが多い。全身投与では、プラチナ製剤を中心に複数の薬を併用した薬物療法も行われる。
上咽頭
(じょういんとう)がん
ステージⅡ以上では化学放射線療法が実施される。他の臓器への転移のリスクが高い場合は、導入化学療法を併用することもある。薬物療法はプラチナ製剤のみを使用、あるいはプラチナ製剤を中心に複数の薬を併用して行う。
中咽頭
(ちゅういんとう)がん
進行がんに対して、プラチナ製剤を使用した化学放射線療法や術後化学放射線療法を行うことがある。
下咽頭
(かいんとう)がん
化学放射線療法や導入化学療法が実施される。薬物療法はプラチナ製剤のみを使用、あるいはプラチナ製剤を中心に複数の薬を併用して行う。
喉頭
(こうとう)がん
喉頭を温存することを目的に、進行がんに対して化学放射線療法や導入化学療法が実施される。薬物療法はプラチナ製剤のみを使用、あるいはプラチナ製剤を中心に複数の薬を併用して行う。
唾液腺
(だえきせん)がん
治療の中心は手術であり、薬物療法の有効性は確立していないが、考慮してもよいとされている。
甲状腺
(こうじょうせん)がん
手術でがんを切除できない場合や、放射性ヨウ素内用療法という放射線治療を実施できない場合、分子標的薬を使用した薬物療法を行うことがある。

薬物療法の主な副作用

副作用の症状は、使用する薬の種類や量によって異なります。薬物療法を開始する前に、どのような症状に気をつけるべきか主治医に確認しておくことが大切です。予測できない症状が現れる可能性もあるので、気になることがあれば主治医に相談するようにしましょう。

抗がん剤の副作用

毛根や粘膜など、分裂が活発な細胞は抗がん剤の影響を受けやすく、さまざまな副作用が現れます。頭頸部がんの治療で使われるプラチナ製剤の副作用には、吐き気や嘔吐(おうと)食欲不振下痢口内炎倦怠感(けんたいかん)脱毛骨髄機能の低下による血液細胞(白血球など)の減少腎障害聴力障害などがあります。

副作用が出現する時期はある程度予測できるため、例えば吐き気を抑える薬を使用するなど、副作用への対策を講じながら治療を行います。

図 抗がん剤の副作用と発現時期
図 抗がん剤の副作用と発現時期

分子標的薬の副作用

分子標的薬はがん細胞を狙い撃ちする薬であるため、抗がん剤で見られるような副作用は少ない一方、それとは異なる副作用が現れることがあります。

頭頸部がんの治療で使われる抗EGFR抗体の主な副作用には、皮膚障害(にきびのような発疹、皮膚の乾燥および亀裂、まぶたや唇の炎症など)低マグネシウム血症などがあります。まれに肺に炎症が生じる間質性肺疾患(かんしつせいはいしっかん)が起こることがあり、息切れや乾いた咳などの症状が現れた場合は、主治医に相談するようにしましょう。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

頭頸部がんの治療で使用される免疫チェックポイント阻害薬の主な副作用には、吐き気食欲減退下痢疲労かゆみ発疹などがあります。まれに間質性肺疾患や甲状腺機能障害、大腸炎など、免疫の活性化に伴う副作用が生じることもあります。副作用が現れる時期は個人差が大きく、予測できない症状が現れる可能性もあるため、異常を感じたら主治医に相談するようにしましょう。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用 イメージ画像

[参考文献]

  1. 日本頭頸部癌学会. 頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版. 金原出版, 2022. p.17-19.
  2. 日本頭頸部癌学会. Ⅶ.化学療法(抗がん剤治療).
    http://www.jshnc.umin.ne.jp/general/section_06.html
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