頭頸部がんが再発した場合の治療とは
治療がうまくいったように見えても、がん細胞が体のどこかに潜んでおり、
治療後に再発してしまうことがあります。
ここでは、頭頸部がんの再発の特徴と、再発した場合に行う治療について説明します。
頭頸部がんの再発の特徴
再発とは、手術で取り除けなかった目に見えない小さながんや放射線治療で縮小したがんが再び大きくなったり、別の場所に出現したりすることです。治療した場所の近くだけでなく、別の場所で転移としてがんが見つかることも含めて再発と呼びます。
最初にできたがんの部位を原発巣(げんぱつそう)と呼びますが、再発には、原発巣のごく近くに現れる局所再発、原発巣の近くのリンパ節や組織に現れる領域再発、原発巣から離れた臓器や器官に現れる遠隔再発(えんかくさいはつ)があります。遠隔再発は、血液やリンパ液の流れに乗って移動したがん細胞が別の場所で増えたものなので、遠隔転移とも呼びます。
早期の頭頸部がんの再発率は、10~20%程度と考えられています。進行がんでは、初回の治療でがんが完全になくなったと考えられる場合でも、20~40%の患者さんで再発が認められます1)。再発の多くは初回の治療終了後2年以内に起こるといわれており、時期が早いことが頭頸部がんの再発の特徴です。
早期がんの再発率
進行がんの再発率
再発の種類としては局所再発が最も多く、次いで領域再発、遠隔転移の順となっています。遠隔転移が起こる部位は、上咽頭がん(じょういんとうがん)では骨が最も多く、そのほかの頭頸部がんでは肺、骨、肝臓に多く認められます2)。
再発した場合に行う治療
再発した際の治療方法は、手術や放射線治療などの局所的な治療と、薬物療法による全身治療に分けられます。局所再発に対しては、BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)、光免疫療法(アルミノックス治療)といった治療方法があります。
手術
がんが広がっておらず、重要な臓器に近接していない場合、手術による切除が行われます。ただ、手術後に傷口がなかなか治らなかったり、皮膚が壊死したりする合併症が起こる可能性もあるため、患者さんの状態や希望なども十分に考慮した上で手術を行うかどうか判断します。遠隔転移がある場合は薬物療法による治療が主体ですが、再発した部位が肺や肝臓の場合は手術の対象となることもあります2)。
放射線治療
手術による切除が難しい場合は、放射線治療が検討されます。ただ、すでに放射線治療を行っている場合は、同じ部位に放射線を再度照射すると頸動脈の破裂や組織の壊死など重篤な合併症を引き起こすおそれがあるので、放射線治療ができないことがあります。そのため、局所再発で過去に放射線治療を実施している場合は、薬物療法による治療を検討します3)。
薬物療法
過去に放射線治療を実施していて再び放射線を照射することが難しい場合や遠隔転移がある場合は、薬物療法による治療が行われます。薬物療法は、がん細胞を自滅に導くプラチナ製剤や細胞分裂を妨げてがん細胞の増殖を抑えるタキサン系の抗がん剤をベースに、複数の薬を併用して行うことが一般的です。プラチナ製剤、タキサン系に加え、分子標的薬(ぶんしひょうてきやく)の抗EGFR抗体を併用することもあります4,5)。
プラチナ製剤を含む治療を行っている最中や治療後6カ月以内にがんの病状が悪化した場合は、プラチナ製剤の効果が期待しにくいと考えられるため、免疫チェックポイント阻害薬による治療を行います5)。免疫チェックポイント阻害薬については、頭頸部がんの薬物療法とは?で詳しく説明しておりますので、そちらをご覧ください。
BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)
BNCTは、ホウ素を含む薬剤と放射線の一種である中性子線を使ってがん細胞を選択的に破壊する治療法です。中性子線はエネルギーが非常に小さく、人体への影響はほとんどありませんが、ホウ素とぶつかると高エネルギーの放射線が発生します。この仕組みを利用した治療がBNCTです。まず、ホウ素を含む薬剤を点滴投与し、あらかじめがん細胞にホウ素を取り込ませます。この時、ホウ素は正常細胞に比べてがん細胞に多く取り込まれます。そこに中性子を照射すると中性子がぶつかって高エネルギーの放射線が発生し、ホウ素を取り込んだ細胞を破壊します。
BNCTは放射線治療の一種ですが、ホウ素薬剤ががん細胞に選択的に取り込まれるため、正常細胞へのダメージを抑えてがん細胞を選択的に破壊すること、また原則一回の中性子照射で治療が完了することから、体への負担が少ない治療法です。
従来の放射線治療
BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)
BNCTについては、BNCTとは?で詳しく説明しておりますので、そちらもご覧ください。
光免疫療法(アルミノックス治療)
光免疫療法は、光に反応する薬剤とレーザー光を使ってがん細胞を破壊する治療法です。がん細胞の表面に多く発現するタンパク質に結合する薬剤を投与したあと、特定の波長のレーザー光を照射すると、薬剤が光に反応してがん細胞を破壊します。
① 薬剤を点滴
② がん細胞に存在する
タンパク質に薬剤が結合
③ 薬剤がレーザー光に反応して
がん細胞を破壊
光免疫療法については、光免疫療法(アルミノックス治療)とは?で詳しく説明しておりますので、そちらもご覧ください。
[参考文献]
- 丹生健一. もっと知ってほしい頭頸部がんのこと. NPO法人キャンサーネットジャパン, 2015. p.14.
- 安松隆治. 口腔・咽頭科 2022; 35(2): 123-128.
- 日本頭頸部癌学会. 頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版. 金原出版, 2022. p.206-208.
- 日本頭頸部癌学会. 頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版. 金原出版, 2022. p.19.
- 日本臨床腫瘍学会. 頭頸部がん薬物療法ガイダンス 第2版. 金原出版, 2018.